静岡大学の平内研の木村太星さんが、2022年9月4日ー9月6日、9月10日-9月11日(e-poster)に行われた日本地質学会第129年学術大会で優秀ポスター賞を受賞しました。
木村太星・平内健一
「野母半島長崎変成岩類における蛇紋岩メランジュの構造岩石学的研究」
要旨
深部低周波微動と短期的スロースリップの同時発生現象であるepisodic tremor and slip (ETS)の一部は、巨大 地震震源域の下限以深に沿って帯状に分布していることが明らかとなっている(Rogers and Dragert, 2003; Obara et al., 2004)。近年のETSの発生に関する構造地質学的研究では、レオロジーの不均質性に注目してい る。例えば、Tarling et al. (2019)では、スラブ・マントル境界域で形成された蛇紋岩メランジュ内での交代作 用に着目し、粘性変形が卓越する蛇紋岩マトリックス内部にて、蛇紋岩やロジン岩などからなるブロックとの 間で起きた交代作用によって水が放出され、間隙水圧の上昇が起こることで脆性破壊が誘発される可能性を指 摘している。そこで、本研究では、蛇紋岩メランジュにおける交代作用がスラブ・マントル境界の力学・変形 特性に与える影響について明らかにするために、野母半島の長崎変成岩類を研究対象として構造岩石学的解析 を行った。 野母半島長崎変成岩類には塩基性片岩と泥質片岩からなる結晶片岩類と蛇紋岩類、古期変成はんれい岩複合 岩類が分布している。結晶片岩類は泥質片岩の鉱物組合せをもとに緑泥石帯、ザクロ石帯、黒雲母帯に分帯さ れており、そのうち黒雲母帯は緑簾石角閃岩相に相当することが知られている(宮崎・西山,1989)。本研究で は、宮崎町川原木場において蛇紋岩体と黒雲母帯に属する結晶片岩類の境界部に露出した蛇紋岩メランジュ(西 山ほか,1997)に着目した。蛇紋岩メランジュは主に変成塩基性岩と曹長岩から構成される。変成塩基性岩で は大きさ数cm~数10 cmの曹長石からなるレンズ状のブロックとそれを囲むアクチノ閃石、緑泥石からなるマ トリックスから構成されるblock-in-matrix構造が認められる。マトリックスでは、アクチノ閃石と緑泥石の形 態定向配列により、片理が形成されている。また、マトリックス内にはクリノゾイサイトが濃集した部分や緑 泥石からなる局所的な剪断帯がみられる。さらに、変成塩基性岩を切るように発達した幅数cm程の緑泥石-ア クチノ閃石片岩が確認される。緑泥石-アクチノ閃石片岩は、周囲の変成塩基性岩に比べて片理が強く発達し ており、剪断帯を形成している。 上記の結果は、スラブ・マントル境界域において曹長岩が高間隙水圧下にて破砕され、ブロック化したことを 示唆する。そして、マトリックスがアクチノ閃石や緑泥石、クリノゾイサイトから構成されていたことか ら、破砕によって形成された間隙にCaやAlに富んだ流体が浸透し、交代作用によって析出したと考えられ る。このプロセスは間隙率を低下させることから、再び高間隙水圧条件を促し、曹長岩の破壊を引き起こすこ とが示唆される。また、マトリックスでのみ片理が認められたことは、ブロックとマトリックスの間で強度差 が生じ、レオロジーの不均質化が生じたことを示唆する。さらに、緑泥石―アクチノ閃石片岩にて剪断帯が形 成されていたことから、開口破壊域にアクチノ閃石や緑泥石がより多く析出した領域では変形の局在化が起こ ると考えられる。以上のように、間隙水圧の上昇による破砕作用とそれに伴う交代作用がスラブ・マントル境 界域の力学・変形特性に重要な影響を与える可能性がある。