超臨界地熱における岩石ー流体相互作用
地熱は日本のような火山国において、地域に根差した有望な再生可能エネルギーとして期待されています。特に、東日本大震災以降、水の臨界点を超える400℃以上の超臨界流体が胚胎する地熱資源が次世代型の再生可能エネルギーとして期待されている。そのために、世界各地で、高温掘削のプロジェクトが進められていますが、通常の地熱貯留層は200-300˚Cが開発対象であり、超臨界状態の高温の環境下での地殻の力学的、化学的特性はよくわかっておらず、いまだにフロンティアと言えます。
とくに、シリカ(SiO2)の析出は地熱開発の最大の問題です。シリカは流体に高温高圧で溶け込み、温度と圧力が変わることで析出します。本研究室では、オリジナルな実験装置を作成して、地下の超臨界条件を再現し、このシリカ粒子の析出プロセスを明らかにし、超臨界地熱資源の形成メカニズムを明らかにするとともに、地上設備や配管などへの付着の問題に取り組んでいます。
高温の超臨界状態の地熱から噴気する(Flashing)条件を実験室で再現しました。すると、噴出する蒸気の中にはアモルファスシリカの微粒子が大量に含まれることがわかりました。アモルファスシリカは地殻表層では準安定であり、時間が経つと水晶のような夕影に変化します。このようなちょっと特殊な状況を考慮したシリカ削減、除去の方法を考える必要があります。
また、フラッシングによるシリカ析出は、実は地震の際に、断層の中でも形成されているのではないか、と予想されています。シリカが、地下の亀裂や断層を充填することで、断層の力学的性質や地下の流体圧を変化させることで、地震発生や鉱床の形成にも深く関わってくることがわかってきており、大きく注目されています。私たちは、「地殻の流体」を軸に、地震ー鉱床ーマグマー地熱系の地圏環境のダイナミックなプロセスを統一的に理解しようと取り組んでいます。
シリカのほかにも、地殻流体には様々な成分が溶け込んでいますが、超臨界の低密度の条件では、溶存種やイオンの熱力学データはほとんど構築されていません。この30年の間、解けないとされてきた問題に対して、実験と熱力学解析を組みあわせてチャレンジし、高温の地下の化学的な挙動の評価を行っています (Okamoto et al. 2021, Geothermics)。また、冷却水を循環しながら、掘削をしていために、原位置の自然状態の温度を知ることは大変難しいです。このために、私たちは、掘削の切屑(カッティングス)の化学分析をすることで、温度を測定する方法を提案しました(Uno et al., 2023, Geothermics)。このように、超臨界地熱資源は、高温の地球の熱エネルギーの利用のフロンティアであるとともに、ダイナミックな地殻現象の天然の実験場であるとも言えます。