蛇紋岩化作用と水素の発生

海洋底は地殻が5km程度と薄いために、海洋地殻を浸透して、海水が直接的にマントルと反応します。このマントルの岩石が水を吸収する反応を「蛇紋岩化作用」と呼びます。実は、この蛇紋岩化作用は様々な方面で大きな注目を集めています。その1つは、この蛇紋岩化作用によって、水が還元されて、水素、または二酸化炭素と合わさってメタンが発生する点です。1970年代以降、深海底においていくつもの熱水噴出孔が発見されて、そこには特殊なエコシステムが形成されていました。つまり、蛇紋岩化作用によって作り出された水素エネルギーを使って、海底の地殻内部の生態系が維持されており、固体地球と表層環境・生命圏を結びつけています。また、蛇紋岩は、火星や木星の衛星などでも存在していると考えられており、地球史における生命の発生や、他の天体での生命の存在をとく鍵を握ると考えられています。

しかし、実際にマントルがどれくらい水を吸うのか、すなわち、水素がどれだけ地下から発生しているのかはよくわかっていません。私たちは、この海洋底の蛇紋岩化作用を天然の調査、室内実験、数値シミュレーションなどで明らかにしようとしています。2013年、2017年には、潜水艇「しんかい6500」に乗って、6000mもの深海底からマントル岩石の採取を行ってきました。

プレスリリース 2021年 超深海の変質したマントル岩石の内部で 炭素を含む海水が循環していることを明らかに

蛇紋岩はCO2を固定する能力が最も高いことでも知られています。緑色が蛇紋岩、白色が炭酸塩脈で綺麗なので壁材としてよく使われています(EGU, ウィーンにて 2019)
地殻ーマントル境界を明らかにする、国際的なオマーン掘削プロジェクトに参加しました。 掘削船「ちきゅう」でのコア記載 2018

蛇紋岩化反応による水素の発生は、Fe(II)がFe(III)に酸化されることによって起こります。マントルの岩石のFeの価数(Fe(III)の量)によって記録されています。過去に海洋プレートが地殻にのし上がった「オフィオライト」と呼ばれる岩石が中東のオマーン国に露出しています。この岩石のFe(III)の分布について、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設でのX線分析により、蛇紋岩の中のナノスケールの空隙、マグネタイトの分布と蛇紋岩中のFeの価数を調べました。